★アークギャラリー左側展示スペース
方舟日記と題した歴史・民俗資料常設展は、この地域を昔から現在まで変わることなく支え続けてきた《食》をキーワードとして、薄れゆく地域の民俗、習俗、歴史、生活文化を総合的に展示し、地域の未来を担う次世代へと伝えていくと同時に、芸術文化理解の一助とするものです。
三陸沿岸部、リアスの暮らしは、黒潮と親潮が出会う豊かな海と、それに接する豊かな山並みに支えられています。
海と山の両方を兼ね備え、同時に穏やかな内湾を有する自然環境は当地域最大の財産と言えます。そのような三陸沿岸に位置する気仙沼市・南三陸町の広域圏は、地形や気候風土の恩恵を受け、古くから漁業が栄えてきた地域です。
広域圏に存在する多くの貝塚から判断できるように、当地域は縄文の時代から変わることなく《食料の宝庫》と呼べるほど《食》に恵まれています。ヒトが生活していくためには食料が不可欠です。食料入手が継続的に保証されて初めて、ヒトはその土地に定住することができます。この広域圏に現在の文化が築かれた最大の理由、それは「そこに豊かな食環境があったから」に他なりません。それゆえに、この広域圏一帯の民俗、習俗、歴史、生活文化を知るためには《食文化》を見つめる必要があると当館では考えています。
第一次産業が地域を支えているということは、「強い生命力を持っている」ということ、本当の意味で地域が豊かであることの証と言えます。豊かな食はヒトの生活の基礎であり、生活の基礎を固く支えられていることで、私たちは地に根を張った文化を花開させることができます。リアス・アーク美術館ではこれを芸術文化の基盤と捉えています。私たちは芸術を通して、人間の歴史や文化などを知ることができます。また逆に、地域の民俗、習俗、歴史、生活文化を知ることで芸術の意味をより深く知ることも可能と言えます。そのような考えの下、当館では美術作品常設展示とともに、この《方舟日記》を館の基幹展示と位置付けています。
常設展示「方舟日記」では、展示資料が実際に使用されている様子などを描いたイラストパネルによる展示解説を行っています。当館学芸員の手によるそれら解説は、文字や写真ではイメージしにくい内容を補足するための補助資料となっています。
常設展示「方舟日記」では主に、当地域の近代以降、1960年頃までの暮らしを紹介しています。地域の老人たちは「昭和35年(1960年)頃から地域の暮らしが大きく変わり始めた」と語っています。その変化は高度経済成長政策による日本全体の変化と時を同じくするものです。地域の歴史を紐解いていくと、東日本大震災による被害が大きかった埋立地などはその時期に開発されたものが少なくないことがわかります。歴史上、何度となく繰り返されてきた津波災害の記憶が薄れ、2011年当時の街並みが形成され始める、それ以前の地域の暮らしがどのようなものだったのか、どのような考えをもって自然環境との関係を築き上げてきたのか、本展示を通し改めて考えていただければ幸いです。
★アークギャラリー右側展示スペース
1994年10月の開館以来、リアス・アーク美術館では東北、北海道在住、あるいは所縁の作家を中心としつつ、より多様な芸術表現に触れる機会を地域住民に提供できるよう、様々な企画事業を行ってきました。これまでの展覧会の内容を見てみると、油彩画、水彩画、版画、写真、彫刻、工芸、インスタレーションなど、その表現様式は多岐にわたっています。
この美術作品常設展示は、企画展等として当館が過去に紹介した作家より寄託、寄贈いただいた作品を中心に構成されています。したがって展示作品の大半は東北、北海道在住、あるいは所縁の作家による作品となります。
当館で展覧会を開催した作家は全てこの地域に足を運び、そこで新たな関係を育みます。その新たな出会いやつながりは地域の大切な文化的財産となります。過去の地域文化保存はもちろん、日々成長し続ける美術館として、今現在、そしてさらにこれからの未来が育む新しい関係性や価値観、文化も同乗できる《大きな方舟》であり続けることは当館の重要な使命です。この美術作品常設展示は今後も進化を続けていきます。